
本稿では、イタリア市場を主軸に、現地で求められる日本茶の価値やブランドづくり、EU規制への対応について、実際の輸出現場で直面してきた事例をもとに解説します。
抹茶をはじめとする日本茶への関心が世界的に高まるなか、美食の国として知られるイタリアでも、日本茶を日常に取り入れる消費者が増えています。一方で、品質の高さや「日本産」であることだけでは、継続的な取引や販売にはつながりません。
イタリアの消費者やバイヤーは、味や品質はもちろん、産地、生産者、栽培方法、製造技術といった、商品を支える背景やストーリーを重視します。また、実際に輸出するためには、EUの残留農薬基準や包装表示などの規制を理解し、検査体制や取引条件を整えることも欠かせません。
日本茶がイタリア市場で選ばれ続けるために必要なのは、量や価格で競うことではなく、商品の価値を現地に伝わる形で整理し、信頼の根拠とともに届けることです。
本記事では、イタリア市場の可能性をはじめ、ブランドストーリーのつくり方、GIマークの活用、EU規制への対応、MOQの考え方、現地バイヤーとの関係構築、展示会やイベントを活用したPR戦略まで、日本茶輸出を進めるうえで押さえておきたいポイントを紹介します。
- なぜ今、イタリア市場なのか
- 訪日客急増という追い風
- 「量」より「質」で勝つ
- 自社取引の強み
- ストーリーを付加価値に
- GIマークの活かし方
- EUの輸入規制と検査費用
- MOQ(最低発注数量)は誰の目線か
- 商談成立を左右する連絡対応
- 現地との接点を広げるPR戦略
- まとめ:量では勝てないからこそ
なぜ今、イタリア市場なのか
イタリアでも抹茶ブームが起きており、日本茶を知ってもらう好機が訪れています。
同国は、ミシュランの星付きレストラン数やDOP・IGP(※)の登録件数が世界トップクラスの美食大国であり、消費者の舌は欧州でも群を抜いて肥えています。エスプレッソ一杯にも産地やロースターへのこだわりを語る国民性は、茶葉にも同じレベルの物語と品質の根拠を求めます。
そのため、「日本製だから高級」というだけの売り文句は通用しません。
一見するとハードルが高い市場に見えますが、実は追い風でもあります。イタリアの消費者やバイヤーには、量産品ではなく、本物の背景を持つ産品を高く評価する土壌がすでに形成されているからです。
※DOP(原産地呼称保護)・IGP(地理的表示保護)は、EUが産地や製法を認証する制度で、後述する日本のGI制度と同じ枠組みに位置づけられます。
訪日客急増という追い風
コロナ禍前の2019年、訪日イタリア人数は約16万人でした。コロナ禍が明けた直後の2023年は、まだ2019年の水準に届いていませんでしたが、そこからの回復は、ほかの欧州市場とは一線を画すスピードで進みました。

訪日イタリア人数は、「コロナ禍前後は横ばい、直近1~2年で急伸」という動きを見せています。2019年比の伸び率をEU主要国と比べても、イタリアの突出ぶりは明らかです。

訪日客数がもともと多いイギリスやフランスは伸び率で控えめな一方、イタリアはドイツやスペインなどの急成長市場の中でも頭一つ抜けています。旅行消費額も2025年に初めて1,000億円を超えました。
また、訪日イタリア人の8割以上が「初めての来日」であるという点も見逃せません。主要20か国の中でも高い水準にあり、まだ日本を訪れたことのない潜在層が多く存在します。
思い出からライフスタイルへ
訪日客の消費動向は、「モノ消費」から「コト消費」へとシフトしています。茶道体験や抹茶を味わう体験は、日本文化を凝縮した人気コンテンツになっています。
ただし、その体験も、帰国後に同じ味を再現できる茶葉が手に入らなければ、一過性で終わってしまいます。
イタリア人観光客が求めているのは、単なる「お土産としての緑茶」ではありません。日本で体験した一杯を、帰国後の日常にも取り入れることです。
この本物志向の需要に応えられるのは、量産された安価な緑茶だけではありません。訪日イタリア人客の増加は、イタリア市場において、こうした需要が積み上がっていることの表れといえます。
私たちも、産地の情報や日常生活への取り入れ方をSNSで発信し、この需要を実際の購買行動へつなげる働きかけを続けています。

「量」より「質」で勝つ
イタリア市場に日本茶を持ち込む際は、「量」で戦う市場ではないと考えた方がよいでしょう。
中国、ケニア、スリランカなどの伝統的な産地から、生産量を伸ばす新興産地まで、世界の茶市場はすでに「量の論理」で埋め尽くされています。同じ土俵に入っても、価格でも供給量でも勝負になりません。
目指すべきは、産地、栽培哲学、加工技術、そして後述するGI(地理的表示)のような制度的な裏付けを組み合わせ、「安いお茶」の対極にある独自の価値基準を提示することです。
日本茶には、「量」以外の勝ち筋があります。
日本産だからこそ生み出せる味わい、栽培管理の緻密さ、蒸し工程による味づくり、産地ごとの個性、そして「この生産者が、この土地で、この作り方をしているから、この味になる」というストーリー性です。
これらは量産では簡単にまねできない価値であり、産地や作り手に敬意を払うイタリアの消費者にこそ響きます。
和食ブームや健康志向の高まりに「日本らしく」応えるためには、「なぜこのお茶がよいのか」を現地の文脈に落とし込み、長期的な販売量の成長につなげることが重要です。
自社取引の強み
現在も多く見られるのが、商社を窓口にする取引体制です。
間接輸出には、リスクや業務負担を軽減できるメリットがあります。一方で、利益率が下がりやすく、何よりも「現地の声」が生産者本人に届きにくくなるという課題があります。
日本茶は、味わいだけでなく、その背景にある説明そのものが価値になる商品です。生産者と現地のバイヤーや消費者との距離が近いほど、その魅力を伝えやすくなります。
だからこそ、多少の手間がかかっても、自分の足で現地に立ち、バイヤーと直接言葉を交わすことが重要です。展示会やイベントで試飲してもらう機会も同様です。
現地でしか分からない商習慣やニーズは、実際に現地へ行かなければ、商品開発や価格戦略に落とし込むことができません。
渡航費や展示会の出展費については、国や地方自治体の輸出支援策を活用できる場合もあります。
もちろん、すべてを自社だけで賄う必要はありません。海外営業経験者や現地に精通したパートナーの力を借りながら、段階的に直接輸出を目指すことが、自立したビジネスへのステップになります。
自分の足で歩く努力の先にあるのが、「現地の声に耳を傾けられる体制」です。
バイヤーからのフィードバック、試飲した消費者の反応、通関時のやり取り。その一つひとつについて「なぜそう言われるのか」を読み解く姿勢が求められます。
そして、その声を製品仕様やパッケージ、価格設定へ反映させるスピードと柔軟性が、継続的な取引につながります。「前例がないから」と現地の声を聞き流してしまうと、商品力があっても伸び悩む可能性があります。
ストーリーを付加価値に
量で戦えない以上、日本茶は単なる「モノ」ではなく、「ブランド」として販売する必要があります。
産地の景色、栽培哲学、生産者の顔、家族で受け継いできた技術。これらを単なる背景情報ではなく、商品価値そのものとして設計することが、自社ブランドの構築につながります。
実際に、私たちが独占契約を結んだ新しい産地のお茶は、発売前の段階から一般消費者の関心を集めています。販売実績の数字がまだない段階でも、ストーリーによって市場の注目を動かせることを示す一例です。
欧州のバイヤー、特にイタリアの食文化に精通したバイヤーは、原産地表示以上のストーリーを求める傾向があります。
「なぜ、この生産者のお茶でなければならないのか」
この問いに答えられる企業だけが、価格競争から抜け出すことができます。

イタリアでは、チーズやワイン、オリーブオイルの多くがDOP・IGPによって産地や製法を制度として証明されています。その裏付けを確認しながら商品を選ぶ消費行動が、日常に根付いているのです。
GIマークの活かし方
日本にも、DOP・IGPと同様の考え方に基づく地理的表示(GI)保護制度があります。2026年7月には、「日本茶」そのものが、国全体を生産地とするナショナルGIとして正式に登録されました。
「日本茶」という括り自体が、知的財産として保護される段階に入ったということです。
この制度をパッケージや商談資料で示すことで、イタリアのバイヤーや消費者にも、「馴染みのある仕組みによって裏付けられた、信頼できる産品」として受け止めてもらいやすくなります。
実務では、商談資料の表紙や商品説明ページにGI登録を明記し、パッケージにも表示を加えるのが基本です。


イタリアの消費者やバイヤーはDOP・IGP表示を見慣れています。そのため、同じような視覚的位置づけでGIを示せば、実績の少ない新規ブランドであっても、「制度的な裏付けのある産品」であることを直感的に伝えやすくなります。
EUの輸入規制と検査費用
ここで避けて通れないのが、EUの輸入規定、とりわけ残留農薬基準や検査体制への対応です。
EUの食品安全基準は非常に厳格で、頻繁に更新されます。「今まではこれで通っていた」という過去の事例が、次回もそのまま通用するとは限りません。
規定が変更された後も「前例がない」という理由で対応を先送りすると、商機を逃すリスクがあります。
輸出の現場で意見が分かれやすいのが、残留農薬検査費用を誰が負担するかという問題です。「長い生産実績があるため、検査費用はバイヤーが負担すべきだ」と考える生産者も少なくありません。
しかし、この検査を求めているのは、バイヤーの個人的な意向ではありません。EUの規制に対応するために必要な検査です。
無農薬や特別栽培をうたう以上、その裏付けとなる数値を用意するのは、原則として生産者側の役割です。数値に不備が見つかった場合の責任についても、事前に整理しておく必要があります。
検査費用は、単なる目先の出費ではありません。EU市場へ参入するための投資として捉えることが重要です。
実際、私たちが支援した案件でも、検査費用の負担をめぐるやり取りだけで、意思決定が1か月止まったケースがありました。
検査費用を自社で負担し、必要なエビデンスを揃えて商談に臨む生産者こそが、継続的に選ばれています。その積み重ねが、EUのバイヤーから信頼を獲得する土台になります。
包装資材の素材表示も確認する
もう一つ見落とされがちなのが、包装資材の素材表示です。
EUでは、包装容器に使用素材を示す「PET」「PAP」などの表示を求められる場合があります。しかし、自社のティーバッグや包装資材が何でできているか、十分に把握できていないケースも少なくありません。
包材メーカーへ協力を求め、使用素材に関する情報を集めておくことが必要です。包装資材の確認は、輸出準備の早い段階で進めておくべき作業です。
有機表示についても確認が必要です。EUと日本の間には有機の同等性に関する取り決めがあり、対象品目であれば、有機JAS認証をEU向けに取り直す必要はなく、JAS表示のままEU市場でも「有機」として扱われます。
一方、国内向けの「無農薬」「特別栽培」といった、JAS認証を伴わない表現は、この枠組みの対象外になる点に注意が必要です。

MOQ(最低発注数量)は誰の目線か
意外と見落とされがちなのが、MOQ(最低発注数量)の設定です。
「MOQは50キログラムから」という条件を当たり前のように提示する生産者は少なくありません。しかし、これは典型的な「売り手側」の発想です。
国内で長年、決まった取引先へ一定のロットで卸してきた感覚のまま、初めて接触するEUのバイヤーにも同じ条件を求めてしまうケースがあります。
しかし、販売実績も消費者の反応も分からない商品を、いきなり50キログラム単位で仕入れることは、バイヤーにとって大きなリスクです。条件によっては、商談が始まる前に候補から外されてしまいます。
考えるべきなのは、「自社が売りたい単位」ではなく、「バイヤーが試しやすい単位」です。
初回は小ロットで受注し、店頭やメニューでの反応を確認してもらう。そのうえで、リピート発注のタイミングに合わせて、徐々にロットを引き上げていきます。
「小さく始めて、信頼とともに大きくする」
この順序が、情報の非対称性が大きいEU市場において、成約率を高める現実的な戦略です。
自社で対応できる範囲で、柔軟な姿勢を保つこと。その姿勢が初回の成約につながり、取引の積み重ねによって、長期的に収益を生み出すビジネスへと発展していきます。
商談成立を左右する連絡対応
バイヤーからの問い合わせに反応しない、あるいは返信が遅いというだけで、相手の関心を失わせる理由になります。期限付きの質問や確認事項に、期日どおり対応することも、成約を左右する重要な要素です。
実際に私たちが経験したケースでは、間に立つ仲介者が音信不通になり、生産者や関係者へ一件ずつ問い合わせて事態を収拾するまでに3週間かかりました。その間に商機を逃したこともあります。
海外取引では、連絡の速さと正確さも商品価値の一部です。
ここで後手に回ると、どれほど商品力が高くても、取引の成立や継続に支障が出ます。社内の担当者や返信期限、確認が必要な場合の対応方法を事前に決め、問い合わせへ迅速に対応できる体制を整えておくことが重要です。
現地との接点を広げるPR戦略
生産者の言葉を、翻訳や仲介を介さず、現地のバイヤーや消費者へ直接届けられる貴重な機会が、イベントや展示会での交流です。
ここへの投資を惜しむと、現地での認知形成に時間がかかり、機会損失を重ねることになります。
PRは「余裕があれば行うもの」ではなく、輸出戦略の中核に据えるべき投資項目です。
TEACOODの実績でいえば、フランスのSIAL PARISは、バイヤー向けのBtoB展示会として商談の起点づくりにつながりました。
一方、ミラノでの展示会やイベントはBtoCの場として、現地消費者の生の反応を直接受け止めながら、実践販売での手応えをつかみ、商品導入へとつなげる機会になりました。
オンラインでは、ウェビナーやセミナーを通じて、距離を超えてバイヤーの声を引き出せることが強みです。
輸出を始める生産者にも、この使い分けは応用できます。
- BtoB展示会で商談のきっかけをつくる
- BtoCイベントで消費者の反応を直接確かめる
- オンラインセミナーで、距離を超えてバイヤーの声を聞く
この三つを組み合わせることが、限られたリソースの中でも現地との接点を広げる現実的な出発点になります。
こうした取り組みの積み重ねが、私たちのミラノでのテンポラリーショールームや、コモでの直営店開業、JETRO「Japanese Food Supporter」認定へとつながっています。

まとめ:量では勝てないからこそ
輸出実務、EU規制への対応、検査体制の整備、ブランディング、現地との関係構築、PR・イベントへの参加。ここまで挙げてきた課題は、どれも一朝一夕には解決できません。
ただし、目指す方向は変わりません。
品質とストーリー、そして丁寧な売り込みによって選ばれる企業になること。
それが、イタリア市場において日本茶輸出を成長させる道です。
最初の一歩として取り組みやすいのは、次の三つです。
- EU輸出に必要な書類や規制を確認する
- 海外市場で伝えたい商品の強みを明確にする
- 狙う市場とターゲットを具体的に設定する
イタリア・EU市場への日本茶輸出を相談してみませんか?
TEACOODでは、イタリア・ミラノを拠点に、日本茶ブランドの海外展開を支援しています。
輸出手配やEU市場向けのブランディング、現地でのテスト販売、展示会・イベントの企画、販路開拓まで、現地市場に精通した専門チームが一貫してサポートします。
「EU輸出に必要な準備を整理したい」「自社の日本茶が現地で受け入れられるか試したい」「ブランドの価値やストーリーを海外へ届けたい」とお考えの方は、スキルマートからお気軽にご相談ください。


TEACOOD
イタリア・ミラノを拠点に、日本茶の普及事業を展開。日本茶の輸出や海外販路開拓を支援しています。
輸出実務からEU規制への対応、現地バイヤーとのマッチング、展示会・イベントへの参加まで、生産者に一気通貫で伴走しています。すべてのやり取りは日本語で完結するため、語学力に不安がある事業者でも、輸出へ挑戦することができます。
※本記事は関係者への取材・発言をもとに構成されたものであり、記載内容は執筆者または取材対象者の見解によるものです。農林水産省の公式見解や方針を示すものではありません。