輸出先はどう選ぶ?失敗パターンから学ぶ海外市場リサーチの進め方【5つのステップ】

「海外に売っていきたいが、どの国から始めればいいのかわからない」。食品輸出のご相談の中で、私たちが最も多くいただく質問です。

2025年の農林水産物・食品の輸出額は1兆7,005億円となり、13年連続で過去最高を更新しました(出典: 農林水産省「2025年の農林水産物・食品の輸出実績」)。輸出には追い風が吹いています。一方で、初めて輸出に挑戦する方や、2カ国目への展開を考え始めた方にとって、「輸出先の選び方」は最初にぶつかる大きな壁ではないでしょうか。

弊社(株式会社Coxin)は台湾を中心に、食品に特化した海外展開支援をしています。具体的には、AI・データを使った市場調査と、海外の現地ネットワークを活用した販路開拓を組み合わせた一気通貫のご支援をご提供しています。

この記事では、「なぜリサーチが必要なのか」「リサーチ不足で起きがちな失敗」「実際のリサーチの進め方5ステップ」を、これから輸出に取り組む方に向けてまとめます。

目次
  • なぜ輸出に市場リサーチが必要なのか
  • リサーチ不足で起きがちな失敗3パターン
     - パターン1: そもそもその食材を食べる習慣がなかった
     - パターン2: 「ブルーオーシャン」だと思ったら、ニーズがなかった
     - パターン3: ニーズはあったが、競合が多すぎて埋もれた
  • 海外市場リサーチの進め方: 5つのステップ
  •  - ステップ1: 「誰が・いつ・何の代わりに買うのか」の仮説を立てる
  •  - ステップ2: 公開データで当たりをつける
  •  - ステップ3: 現地の「棚」と「価格」を自分の目で確かめる
  •  - ステップ4: 現地の声で仮説を検証する
  •  - ステップ5: 規制と価格を織り込み、参入を判断する
  • まとめ: リサーチは「外す確率を下げる」ための投資

なぜ輸出に市場リサーチが必要なのか

日本の食品輸出は、多くの場合「うちのこの商品を海外に売りたい」という気持ちから始まります。いわゆるプロダクトアウト型の出発点ですが、それ自体は悪いことではありません。地域で長く愛されてきた味や製法は、海外でも十分に武器になります。

問題は、市場のニーズを一度も確かめないまま、販路だけを探しに行ってしまうことです。

国内であれば、長年の商売の感覚で「売れそうかどうか」をある程度見立てられます。しかし海外では、味覚も食文化も、価格相場も、競合も、規制も日本とは異なります。国内の感覚のまま市場を選ぶと、見立てが大きく外れることがあります。

しかも輸出は、始めるまでにお金がかかります。ラベルの現地語対応や規制への対応、輸送の手配、商談のための渡航など、売上が立つ前の投資が少なくありません。市場選びを外すと、これらの投資を回収できないまま撤退することにもなりかねません。

ここで強調したいのは、リサーチの目的は「正解を当てること」ではないという点です。どれだけ調べても、最後はやってみないとわからない部分が残ります。

リサーチの本当の目的は、外す確率を下げること、そして外れたときに早く気づいて軌道修正できるようにすることです。この前提に立つと、リサーチは「完璧にやるもの」ではなく「小さく回すもの」になり、ぐっと取り組みやすくなります。

リサーチ不足で起きがちな失敗3パターン

はじめに、私たちが現場でよく見聞きする失敗を3つのパターンに整理します。いずれも「あるある」ですが、事前のリサーチでかなり防げるものです。

パターン1:そもそもその食材を食べる習慣がなかった

最初のパターンは、食文化の壁です。日本ではおなじみの食材でも、海外では調理方法が知られていないことがあります。家庭に必要な調理器具がない、宗教や習慣上の理由で避けられている、という場合もあります。

たとえば、出汁を取る文化がない地域に乾物を持ち込んでも、そのままでは使い方が伝わりません。「良い商品なのに、そもそも食べ方がわからない」という状態です。

このパターンは、現地のスーパーやECサイトで類似商品が売られているかを確認するだけでも、かなり防げます。注意したいのは、類似品が一つも見つからない場合です。「未開拓のチャンス」に見えても、「需要がない市場」である可能性をまず疑う必要があります。

パターン2:「ブルーオーシャン」だと思ったら、ニーズがなかった

2つ目は、パターン1と地続きの話です。「競合がいないから今のうちに行こう」という考え方は、輸出では危うい判断になりやすいところです。競合がいないのには、たいてい理由があります。誰も参入していないのではなく、過去に参入して撤退した企業がいるのかもしれません。

実際に、「競合がいないと聞いて意気込んで出展したが、そもそもその価格帯で買う層がいなかった」という声を聞いたことがあります。日本産の食品は、現地では多くの場合、プレミアム価格帯に位置します。その価格を受け入れる購買層がどれだけいるかは、市場によって大きく異なります。

「なぜ競合がいないのか」を一度立ち止まって考え、現地の価格相場と購買層を調べることが、このパターンの予防策になります。

パターン3:ニーズはあったが、競合が多すぎて埋もれた

3つ目は逆のパターンです。「日本食ブームでニーズがあるらしい」という情報だけで参入すると、そこはすでに日本産品同士の競争が激しい市場だった、ということがよくあります。台湾や香港のような日本食品の主要輸出先では、日本の商品同士が棚を取り合っています。さらに、現地メーカーがつくる「日本風」の商品との競争もあります。

私たちが台湾で売り場の調査を行うと、同じカテゴリーの棚に日本産の商品だけがずらりと並んでいる光景は珍しくありません。「日本産である」こと自体は、すでに差別化の理由になりにくくなっているのです。

このパターンの予防策は、「ニーズがあるか」だけでなく、「その中で自社が選ばれる理由があるか」まで踏み込んで調べることです。

3つのパターンに共通するのは、「聞いた話」や「思い込み」で市場を選んでしまっている点です。

では、具体的にどう調べればよいのでしょうか。ここからは、私たちが実際に踏んでいる順番を、5つのステップに分けてご紹介します。

海外市場リサーチの進め方:5つのステップ

ステップ1:「誰が・いつ・何の代わりに買うのか」の仮説を立てる

リサーチは、調べ始める前の仮説づくりが肝心です。やみくもに情報を集めても、量ばかり増えて判断につながりません。

まず、自社商品の強みを言語化します。味なのか、製法なのか、原材料なのか、価格なのか、それとも背景にあるストーリーなのかを書き出してみてください。

次に、その強みが刺さりそうな相手を具体的に想像します。「台湾の30〜40代の共働き家庭が、平日の夕食づくりで、現地の調味料の代わりに使う」といった具合です。

この時点では推測で構いません。後のステップで検証できる形の推測をつくることが、このステップの目的です。

あわせて、候補国は2〜3カ国に絞るのが効果的です。すべての国を同じ深さで調べることは、リソース的に現実的ではないためです。

候補国を絞る際は、次の3つの視点が目安になります。

  • すでに自社商品と同じカテゴリーの日本食品が輸出されている国
  • 現地に日本食レストランや日系スーパーなど、日本食材の販路がある国
  • 自社や取引先に土地勘や人脈がある国

まずやること:自社商品の「強み」と「買ってくれそうな人の情景」を紙に書き出してみてください。

ステップ2:公開データで当たりをつける

仮説ができたら、まず机の上で調べます。無料の公開データだけでも、かなりのことがわかります。

  • 財務省貿易統計:品目別・国別の輸出量や単価の推移がわかります
  • JETRO(日本貿易振興機構):国・地域別の市場レポートや規制情報がまとまっています
  • 現地のECサイトやスーパーのオンラインストア:類似商品の顔ぶれと価格帯が見えます

貿易統計は、自社商品に該当するHSコード(国際的な商品分類番号)で絞り込むのがコツです。HSコードは、税関の実行関税率表やJETROの相談窓口で確認できます。

財務省「貿易統計」のサイトで品目コードと国を指定して検索すると、国別の輸出額・数量が表示されます。国別の輸出額を数量で割ると平均単価が出るため、どの国が、どの程度の価格帯で買ってくれているのかを読み取ることができます。

特におすすめしたいのが、現地ECサイトでの検索です。自社商品と似た商品を現地の言葉で検索すると、競合の数、価格帯、レビューでの評価ポイントが見えてきます。

たとえば台湾向けであれば、現地の主要ECサイトで商品名を中国語に置き換えて検索すると、類似商品の一覧と価格帯をすぐに確認できます。レビューは現地の生活者の生の声であり、無料で読める貴重な一次情報です。翻訳ツールを使えば、現地語がわからなくても、おおよその内容はつかめます。

まずやること:現地の大手ECサイトで自社商品のカテゴリーを検索し、上位20商品の価格帯を書き出します。1時間ほどで、市場の相場観がつかめます。

ステップ3:現地の「棚」と「価格」を自分の目で確かめる

データで当たりをつけたら、次は現地の売り場です。棚は情報の宝庫だと、私たちは考えています。

どのメーカーの商品が、どの棚の高さに、いくらで、どのようなパッケージで並んでいるのか。そこには、データだけではわからない「現地の空気」が詰まっています。

実際に売り場を歩くと、同じ棚の中で価格帯がどれだけ幅を持っているか、パッケージの見せ方がどう違うかを、写真や現場を見るだけで直感的につかめます。

私たちも台湾で日本産の食品を提案する前には、スーパーや百貨店の売り場を歩くようにしています。

以前、日本産の水産品を提案したときのことです。事前に現地の日本食レストランや小売店の様子を確かめたところ、当初想定していた小売向けよりも、飲食店向けの卸のほうが商品特性に合いそうだという感触が得られました。実際に提案の場でも、その分野を手がける現地企業から関心をいただきました。

売り場を見て仮説を修正したことが、手応えにつながった例です。

とはいえ、何度も現地へ行くことは難しいものです。その場合は、現地在住の日本人に調査を依頼する方法があります。私たちは世界53カ国の現地在住者ネットワークと提携し、店舗調査や試食フィードバックの収集を行っています。

ただ、最初の一歩としては、SNSや知人経由で現地在住の方にお願いする形でも十分です。

まずやること:候補国の売り場写真を集めます。渡航が難しければ、現地在住者への調査依頼も選択肢になります。

ステップ4:現地の声で仮説を検証する

売り場の次は「人」です。ここまでに磨いた仮説を、現地の声にぶつけて検証します。声を聞く相手は、大きく3つあります。

  • 現地のバイヤーや輸入商社:売れ筋、価格の許容ライン、取引に必要な条件を教えてくれます
  • 現地の生活者:試食の感想、パッケージの印象、「いくらなら買うか」がわかります
  • 展示会・商談会:短期間で多くの声を集められる場です

ここで大切なのは、否定的な反応こそ持ち帰ることです。

「甘すぎる」「一袋の量が多い」「この価格なら現地品を買う」といった耳の痛い声は、商品や訴求を現地に合わせて磨くための材料になります。

私たちの経験でも、提案が最初の仮説どおりに進むことはむしろまれです。現地の声を受けて売り先やチャネルの仮説を修正しながら、少しずつ前に進んでいくのが実際のところです。

まずやること:「おいしい日本、届け隊」のような公的事業やJETROの商談会など、現地の声に触れられる機会を探し、まずは1件申し込むところから始めます。

ステップ5:規制と価格を織り込み、参入を判断する

最後に、ここまで集めた材料を、「事業として成り立つか」という判断に落とし込みます。見るポイントは2つです。

1つ目は、規制の確認です。添加物の規制、ラベル表示、必要な証明書は国ごとに異なります。日本で認められている添加物が、輸出先では使用できないケースもあります。

JETROの規制情報や専門家への相談を通じて、早い段階で確認しておくことがおすすめです。商談がまとまった後に規制で止まるのが、最も避けたいパターンです。

2つ目は、価格の逆算です。現地の店頭想定価格から、小売と卸のマージン、関税、輸送費を差し引いて、自社の出し値で利益が残るかを計算します。ステップ2〜3で調べた現地の価格帯を、ここで活用できます。

そして、判断に迷う場合は、「小さく始める」という選択肢があります。少量のテスト輸出や越境ECでのテスト販売で実際の反応を確かめ、データが集まってから本格展開する進め方です。

リサーチは机の上で完結するものではありません。小さな実践も、リサーチの一部です。

まずやること:現地の想定売価から逆算した収支を、1枚のシートにまとめてみてください。

まとめ:リサーチは「外す確率を下げる」ための投資

この記事のポイントを整理します。

  • 海外市場は国内の感覚だけでは見立てられないため、市場リサーチが必要です
  • 失敗の多くは、「聞いた話」や「思い込み」による市場選びから生まれます
  • 「仮説→公開データ→現地の棚→現地の声→収支判断」という5つのステップで、小さく回すことがおすすめです

輸出の市場リサーチは、特別な専門技術ではなく、順番と道具を知っていれば自社でも始められる取り組みです。一方で、現地語での調査や現地在住者への調査依頼など、自社だけでは手が届きにくい部分があるのも事実です。

私たち株式会社Coxinは、食品に特化した海外販路開拓サービス「Urelio(ウレリオ)」を運営しています。AIを活用した市場調査・分析と、世界53カ国の現地在住者ネットワークによる現地調査を組み合わせ、皆さまの海外展開をお手伝いしています。

海外市場のリサーチについて相談してみたいという方は、お気軽にお問い合わせください。

執筆者プロフィール

株式会社Coxin 代表取締役 加藤 慶之

「日本の良いものを、デジタル技術でもっと世界に」というビジョンのもと、AI・データを活用した市場調査と現地ネットワークを組み合わせた食品輸出支援サービス「Urelio」を運営。

台湾を中心に、日本の食品メーカーの海外販路開拓を支援している。

※本記事は関係者の取材・発言をもとに構成されたものであり、記載内容は執筆者または取材対象者の見解によるものです。農林水産省の公式見解や方針を示すものではありません。